雑文集

文章と漫画を描いています

十字式健康法

 

ある時期、原因不明の背部痛に悩まされていたことがあった。

最初はただの寝違いか何かだろうと思っていたのだが、何日経っても良くならない。数週間ほど経ってようやく「もしかしてこれ一生治らないヤツじゃ?」と不安になり始めた。

しかし病院には行きたくなかった。 どうせ変な検査をいっぱいやらされるだけで 「原因は 特定できません。 とりあえずこの治療を試してみましょう」とかなんとか言われて、適当な実験台にされるに決まっているのだ。

整体に行くか鍼灸に行くか迷っていたら 当時の上司にあたる人から十字式健康法を勧められた。 その人は十字式によってギックリ腰が完治したと言う。

「あの時は参ったよ。いきなり来ちゃったから。とにかく激痛で脂汗ダラダラよ。全然動けないの。電話のあるところまで這って移動してタクシー呼ぼうとしてたら、ちょうど家族が帰ってきてさ。そのまま抱きかかえられて十字式に連れて行かれたの。そしたらその場で治っちゃったんだよ」

そう言ってその人は一条ゆかりが書いた十字式健康法のチラシを見せてくれた。

キリスト教団体が行っている」
「念を使った施術 」
「肌に触れずに気の力で背骨をまっすぐにする」

私は、これを私に、よりによってこの私に勧める上司の勇気に心打たれた。

普通はこんなもの勧めはしない。 どんなに効き目があったからといって、勧めた瞬間に相手の心の中でシャーッとぶっとい線が引かれ「ハイハイ、アナタあっちの世界の住人ね」と距離を置かれかねない案件である。

そんな危険を冒してまで勧めてくれるということは、よほどその経験が劇的なものであったのだろう。

その人はギックリ腰のことがあって以来、定期的に十字式に通っているのだと言う。

「 何をやっても、どこに行っても治らなかった肩こりが、十字式に行くとすごく楽になるんだよ。ホント信じられないだろうけど」

ホント信じられなかった。 思い込みの激しい人間には効くかもしれんが、私のような疑り深い人間に効くとは思えない。
しかし私のモットーは「とりあえず一度は騙されてみる」である。

私は疑り深いがゆえに、疑り深い自分のことも疑っている。「疑っている自分が間違っているのではないか?」と。
なので、大きなリスクがないと思われることに関しては、割とアグレッシブに騙される方向でトライすることにしている。

今回のリスクは初回料金 3,500円をドブに捨てることくらい。直接体に触れないのだから、効かなかったとしても、悪化することもないだろう。

で、行ってみた結果なのだが、効果があったのか無かったのかと言うと、これがまた正直微妙なのだ。

施術を受けた直後は特に何も変化はなかった。その日の夜も「やっぱ背中が痛いままだなあ」と思いながら床につき 「やっぱ治ってないなあ」と思いながら翌朝の目覚めを迎えた。

が、気がついたらいつのまにか背中の痛みを意識しなくなっていた。施術を受けて数日経ってから「あれ?そういえば痛くないな。いつから痛くなくなったんだろう?」というくらい、本当にいつのまにか痛みが消えていた。

これが施術から24時間以内の出来事なら「効いた!」と思えるのだが、何しろ数日経っているので、もともと治りどきだったという可能性も否定できない。しかし、もし十字式に行ってなかったら、ずっと痛いままだったかもしれないのだ。

あ~、わからん。モヤモヤする。

もし、また背中が痛くなったら、もしくは肩こりにでも悩まされるようになったら、もう一度十字式に行こうと思いながら、背中も肩も痛くならないまま現在に至る。

noteやブログ、Twitter などで、原因不明の体の痛みや病気に悩まされている人を見かけることがある。 その中には「それ十字式で治るヤツなんちゃう?」と思われるものがいくつかある。

そういう記事を読むたびに十字式を勧めるコメントを書き込みたくて書き込みたくてムズムズしてしまう。 100パー、クソリプ扱いされるのがわかっているから我慢しているが、本当は声を限りに叫びたい。

「アンタいっぺん十字式に行ってみてんか!!!」と。